1.地域について
TJUPプラットフォームが対象とする地域は,川越比企地域に分類される東松山市,坂戸市,鶴ヶ島市,毛呂山町,越生町,吉見町,鳩山町,滑川町と,西部地域に分類される日高市,入間市,狭山市,飯能市および熊谷市である。
地域の市町村は今後の取り組みによって拡大することが予想されるが,発足当初にあたっては参加大学が存在する市町村と連携事業を行なっている市町村を対象地域とした。
人口問題について
対象地域の人口は,埼玉県人口のおよそ20%を占めている。川越比企地域の人口増減率(H22〜H27)は,ほぼ0%,西武地域では−1.8%でありわずかに減少している地域であるが,特殊出生率がともに低く,今後の急激な人口減少が推測される地域である。
図1は,昭和60年から平成52年までの人口推移を埼玉県の市町村別将来人口推計ツールを用いて計算したものである。東上線地域も西武線地域もともに高齢化が進み,人口が穏やかに減少に推移することがわかる。
図2に示すように,平成42年(2030年)までに東上線地域で約3万人の減少,西武線地域で約2万5千人の減少が見込まれている。 図3のコーホート図は,同年代の人口の増減を示している。高齢の領域で減少して行くのは死亡等による人口の減少があるためである。ここで特徴的なのは,20歳代の減少がともに大きいことである。
図4の純移動率は,死亡等による人口減少を差し引いて,正味の移動をその年齢層の割合で示している。10代で増加しているのは,30〜40代のゆるやかな増加と対応していて,未だ続くニュータウン型宅地開発によって子育て層の家族での転入と解釈できる。この傾向は,西武線地域よりも東上線地域で顕著である。一方で,どちらの地域でも20代の転出が特徴的に大きいことがわかる。特に東上線地域では20%も減少しており,この地域に住む20代は5人に一人が地域外へ移転していることになる。移転の理由としては,大学進学や就職が考えられる。また,20代で転出した人が,その後にこの地域に戻ってきていないことも推察される。 ニュータウン政策が一時期的な人口増加を引きおこし,小学校新設などの財政負担を自治体に与えたものの,その後,その世代が大学に進学する時期になると地域を離れていってしまう構図が見えてくる。ニュータウン政策が,子育て世代である30〜40代の大量転入を引き起こすゆえに,20〜30年後の急速な高齢化を引き起こすことは良く知られている。
まとめてみると次のようなことがわかる。
- 現状の推移では,人口の減少および高齢化が進行する。
- ニュータウン等宅地開発によって現状では人口流入があるものの,20代の人口流出が顕著であり,転出後は地域へあまり帰ってこない。
現在,18歳人口の大学進学率は全国でおよそ50%程度と言われるが,この地域においてはそれ以上の進学率があると考えられる。東上線地域,西武線地域は,埼玉県でも私立大学が多く存在する地域であるが,それでも18歳人口を全て収容するには足らないので,ある程度の流出は防ぎようがない。しかし,地域の大学が多彩な教育プログラムによって大学進学しない層を含めた20代の転出をおさえたり,地域の住みやすさを向上し,地域産業を活性化させることによって,転出した層のリターン率を上げることはできるかもしれない。そのためには,地域の大学が自治体や地元企業と協力して取り組む必要があるだろう。
2. 自治体・企業アンケートの分析
自治体・地域企業に対して,主に地域課題の認識及び自治体の対策についてのアンケート調査(別紙)を行った。
2.1 地方財政の動向概略
特定地域の2013年度〜2017年度の財政変動はほとんどない。市町村民税の減少もわずかである。町の年間予算は25~36億円程度で,市の年間予算は,150~203億円程度である。収入のうち市町村民税が占める割合は,町で50〜70%,市で78〜93%程度であった。最近の傾向として地方交付税が減少する傾向にある。また,市町村民税のうち固定資産税が占める割合は,町で46〜53%程度,市では42〜45%程度であり僅かながら年々増加の傾向がみられる。
市町村民税収入の変動が少ないのは,図3のコーホート分析でわかるように労働人口の変動が少ないためで,少子化や若者の転出が続けば自然と減少の方向をたどる。一方,ニュータウン構想のように,比較的所得のある労働人口層の大量転入を考えたとしても,特定地域に点在する40年前のニュータウンのその後をみるとさらに工夫が必要とも考えられる。
収入のうち市町村民税が占める比率は,町においてはおよそ半分を地方交付税に頼っていることがわかる。これは自治体の政策とも直結するので推測の域は出ないが,自治体の取り組みのターゲットはこのあたりにあるのではないかとも考えられる。
地方交付税同様に,市町村民税のうち固定資産税が占める割合も町の方が大きい傾向にある。人口安定化(増加)政策とともに,土地の有効利活用も税制的には意味のあることと推察される。
2.2 自治体の問題意識
アンケートでは,点数による重み付け方式で地域における課題の重要度を調査した。
図5は,自治体と企業に地域における課題の重要度を聞いた調査結果である。自治体は,人口減少,少子化を最大の問題としており,次に健康促進というように将来に亘る課題として捉えているのに対し,企業の方は高齢化対策を最大の課題としており「現状の課題」に重きを置いていることが伺える。どちらにも共通している点は,街の活性化,企業誘致,学校教育の充実などで基本的には「栄えていること」が重要であると認識されているのであろう。自治体では,災害対策の順位が比較的高い。
これらの課題重要度意識から,地元大学が連携すべき内容として以下の点が考えられる。
・ 初等教育等との教育連携,そこから人口転出を抑止する力の創出
・ 地元産業の活発化
・ リスクマネージメントなどの災害対策
地域での教育を充実させることと,優秀な人材を地域に繋ぎ止めておくことは同じことではないかもしれない。東上地域,西部地域はともに都心へのアクセスは良いので,就職先が都心であることは抑止しにくい。ましてや,人口減少によって都心の住宅価格が下がれば,転出が増えることも予想される。やはり,街づくりや住みやすい環境の整備も必要な要素であると考えられる。
図6は,地元大学に期待する事項を自治体,企業に聞いた結果である。
自治体からは教育,健康促進への協力への希望が強く,企業からは,卒業後の人材としての期待が大きいことがわかる。産官学連携による産業の振興への期待も大きく,教育,研究という大学の使命に期待されていることがわかる。 一方で,大学としては地域貢献として取り組まれている地域イベントへの協力は,想定していたよりも低い印象を受ける。
自治体からの期待は,(1)住民への教育・健康における直接的なアプローチ,(2)産業振興,学生の定着など自治体運営に関わる事項,(3)文化的協力や災害対策など主に自治体が主体的に企画するものへの協力と明確に順位をつけて区別できる。 学生の購買力など,学生そのものを対象とした期待は少なく,プラットフォームなどを通じた連携としての期待が大きいことがわかる。
図7は,大学に対する問題意識を聞いたものである。多くは,特に問題を感じないというものであったが,「地元に対する理解が低い」「産官学体制の煩雑さ」などが少なからず指摘されており,協議の機会を増やし,相互理解の中から取り組む必要があることが示唆される。
地域における課題
特定地域は,人口減少が始まる地域であり,20 歳前後の転出が特徴的である。また,転出した年代のリターンも確認できないことから,今後若い世代の引き止めを念頭に方策を考える必要があるだろう。 自治体・企業から期待されるのは,以下の事項である。
- 初等教育等との教育連携,そこから人口転出を抑止する力の創出 ・ 地元産業の活発化
- リスクマネージメントなどの災害対策
しかし,人口転出を抑止するには,都心との関係など他の要因も関係するため,地域の居住性を改善する必要があるだろう。
- 住みやすい街づくり
が,必要である。 大学に対する意識調査では,「地元に対する理解不足」が少なからず指摘されているので,協議体を工夫するなど,実質的に連携することが重要であることがわかった。